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​子どもの絵は

子供の絵には、とても不思議な魅力があります。たとえしっかりと形を描写していなくても、その使う色や線に、とても生命力豊かな躍動感があります。
そして多くの画家が、そんな子供の絵に、魅了され刺激を受けてきたことも事実です。

子供たちは、感情のままに絵を描いていきます。好きだと思う色を配色関係なくどんどん使い、関心があるものは、大きく描き、上下が反対になっても、時間の流れに関係なく、未来も過去も一緒に描いて、とってもおもしろい素敵なものを描いてきます。

私たち大人にはない常識で、描いていくからこそ、私達にないものを表現することができ、それが私たちを魅了していくのでしょう。

​どうして絵が嫌いになってしまうの?

たいていの方は、小さい頃お絵かきをすることに夢中になった経験があるのではないでしょうか。しかし、いつ頃からか私たちは絵を描くことをあまりしなくなります。
なぜでしょうか?
いろいろな要因があると思いますが、大きな理由の一つに、だんだん成長するにつれて、絵を描くことの意味合いが変化をしていくということがあるようです。

小さい子供たちにとって絵を描くという行為は、感情や自分自身を表現できる手段として、言葉以上の意味合いが強いときが多いようです。
ですので、“誰かに見せるための絵”ではなく、“自分を表現するための絵”を描きます。
しかし、だんだん成長するにつれて、使える言葉の数も増え、絵を描くこと以外にも、自分の感情や自己表現ができる手段が増えていきます。

そして次第に絵の意味合いが、“自分のための絵”から、“誰かに見られることを意識する絵”へと変化していきます。
そのころに、比較をするという意識も強まり、上手下手の概念によって、だんだん描かなくなる人が増えていくようです。

​もっと他にも嫌いになる原因が

絵を描くことが嫌いになっていく原因が他にもあります。
親や先生から、あなたは絵が下手ねと言われたり、描いたもの自体を否定されたりしたときです。
つい大人の見方で、その子の絵を否定してしまって、絵を描くという素晴らしい自己表現の手段を、早い段階で取り除いてしまうケースもよくあるようです。

みなさんの中にも次のような経験がおありではないでしょうか?
夕焼けがきれいで空を赤く描いたら、空は青でしょといって、上から塗りなおしをさせられたり、なすびをオレンジで描けば、紫じゃないといけないのにって言われたり、お花はこうでしょって手を持って描かされたり、挙句の果ては、この子は絵を描くのが下手なんですって、親から前もって否定されたりしたら・・・

どうですか?そんな小さな頃の記憶が案外、あなたを描くことから、足を遠のかせていませんか?
子供にとって絵を描くということは、決して、作品をつくっていくことではありません。
私たち大人が、せっかくの子供たちの絵を作品至上主義の目でみてしまい、勝手に優劣をつけてしまって、自己表現の大切な芽を摘んでしまわないようにしていきたいものです。

「絵を描くこと」には、発達段階があります。ここで簡単にその過程をみてみたいと思います。

​描画の発達過程

【1~2歳半頃】

   なぐり描きといって、ぐるぐる円を描いたり、左右に線を描いたりします。
   この頃、描くということには、肩、肘、手首 指関節などの運動機能の発達を
   促すための役割があります。

【2~3歳頃】

   意味づけが始まり、人としての概念形成が始まります。
   言葉の発達に合わせた描画の発達が見られるようになり、「何を描いているの?」
   って問いかけると、円を描いたりしたものに、パパ、ワンワンなどの意味づけが
   みられるようになります。問いかけてあげることが大切な時期でもあります。

【3~5歳頃】

   3歳ごろから、描く途中から意味づけが見られるようになり、
   初めに意味を言ってから、描くようになったりしていきます。
   頭に手足がはえる「頭足人間」や植物や動物を人間と同じように扱うアニムズムで
   描くようになります。
   いろいろな概念が急速に発達していき、それにともなって、「知的リアリズム」
   が促されます。見たがり屋、知りたがり屋になり、つもり活動から、何をしたのかが
   大人でもわかる「再現的表現」に変化していきます。

【4~7歳頃】

   概念をうんと広げていくときで、生き生きとしたイメージによって、
   内容を持った表現の絵を描けるようになります。
   二次元的な世界や「レントゲン描法」といって、見えないところまで描こう
   としていくようになります。

【6~9歳頃】

   小学校に上がる頃には、3次元的な意識が育ってきて、真正面や真横などが
   登場し、8歳ころには、人の重なった様子などの「重なり表現」が
   描けるようになります。

【9~11歳頃】

   9歳のころに、大きな質的変換期があり、見たとおりに描こうとする
   「視的リアリズム」に変化していきます。

【11~14歳頃】

   5歳ごろの概念拡大期から、概念を砕いていく概念破りの時期に入り、
   より写実的な絵へと変化していきます。

発達の速さは人それぞれ

これらの流れは、あくまでも一般的なものであり、個人差があるものなので、その年齢に達したから、必ずそうならないといけないというものではありません。

大切なことは、描画の発達にも、知能や身体の発達にともなった、プロセス(過程)があり、一足飛びに成長していくものではないということです。

なので描画の発達も、ゆっくりとした過程があるということを理解しながら、私たち大人は、しっかりと「待つ」ということを意識しながら、子供たちの発達を見守っていくことが大切なのかもしれません。

またこれらの過程は、まるでらせんのように進んでいきます。
つまり、右肩上がりの成長、発達ではなく、ときに少し立ち止まったような、あるいは後退したような現象が多々見られるということです。

10歳頃に、急に絵が4歳頃の頭足人間を描くようになったりすることが時々あります。

実際の例では、お父さんが単身赴任になって、とっても寂しい思いをしたときに、そんな絵がでてきたということがあります。

そのときに、この子はこんなに大きくなってこんな絵を描くのは、知能の発達に問題があるのでは?と早とちりをする前に、その前後の様子や、周りの環境に変化がないかしっかり把握することが大切です。

せっかくその子はサインを出しているのですから。

 

 

人の発達は、描画の発達だけでなく、知的や身体、
あるいは情緒の世界でも、こうした後退現象が起こるようです。

きっと次の段階へステップアップしていくための、
エネルギー充電のための立ち止まる時間なのでしょう。

​成長しようとする力

子供たちの絵には、感情のそのままが表れています。
また今その子にとって、興味深いもの、刺激をくれる関心ごとが描かれています。

そして、何よりその子自身の創造がそこにあります。
つまり、その子の将来の成長の可能性をみせてくれているのです。

子供たちの成長のペースはそれぞれに違います。
社会性が伸びる時期、我慢するという抑制力が伸びる時期、集中力が伸びる時期など・・・

また発達のスピードは、ある程度の時間を見なければなりません。前に進んでみたり、ちょっと後ろにさがってみたりしながら、発達していきます。子供たちの成長しようとする力を信じてあげましょう。

その子の成長したいペースを大切にしてあげたいものです。

何でも早ければ良いというものではなく、成長の時期に合っていないものを強いることで、その子に過度にストレスを与え、成長のリズムを狂わすどころか、情緒障害などの二次障害を引き起こすことだってあります。

子供たちの描く絵を、ありのまま受け止めてあげて、その子一人ひとりの、
「みんな違ってみんないい」ということをいっしょに感じていくことができればと思います。

​子どもは天然のカラーセラピスト

子供たちは、天然のカラーセラピストだといわれます。
自分の感情と向き合い、そしてその時々に必要な色で表し、また色を使い必要なエネルギーを吸収するようです。

子供たちは、決まって嫌なことがあったときは、黒や紫などの寒色系の色、強い色を使い、描きなぐることで、そのマイナスの感情のエネルギーを外に放出します。

そして、すっきりしてくると、今度は暖色系の色を使い描き始め、笑ったり、はしゃいだりしていきます。

よく「うちの子が黒を良く使ったりするのですが、大丈夫でしょうか?」と質問されますが、そのような色を使って、その子が発散しているのであり、逆にそれを途中で無理矢理止めてしまうことのほうが、かえってよくない方へいってしまうことがあります。

便秘は万病の元とよく言われますが、ストレスや負のエネルギーを心身に溜めたままにしておくと、ろくなことはありません。

適当に、しっかり外に出して、そして新しいエネルギーを取り入れていくことが大切です。

大人は、そのことを意識しなければ、なかなかそうするできませんが、子供たちは、それを上手にしていくことを知っているようです。

私たちができること

私たちが子供たちにしてあげられることは、なんでも無理矢理させることではなく、子供たちがしようとしていることをまず理解していくことが大切でしょう。

自由にのびのびと、自分のリズムで成長しようとする力が十分発揮できるように、環境を作っていくことがとても大切なのではないでしょうか?


私たちの絵画教室では、子供たちに対して、このように描きなさいと強制することはありません。
本人が、どうして描いていいかわからない、知りたいという時になって、初めてこう描くこともできるよと教えています。

勉強もそうですが、したくないこと、嫌なことを強いられることほど、嫌なことはありません。必ずいつか詰まってしまいます。
やってみたい、学んでみたいと感じたときにこそ、学ぼうとする力がもっと強くなるのではないでしょうか。

技術を身につけていく喜び、描けなかったものが描けるようになっていく喜び、できなかったことができるようになる喜びは、次への成長へと導いてくれるものです。

 

 

 

【レッスンで心がけていること】

・子供たちに絵の描き方を、無理矢理に指導しない。

・子供たちの絵を、安易に評価をしない。
  (決して否定をしない。)

・描いた絵は、大切にしてあげる。
 (飾ってあげたりするととても喜びます)

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